dr-machida.com 2009年7月30日更新

マチワイヤ・テクニカル・ティップス (肉芽に対して)
高田馬場病院 町田英一

schema of  tube and super elastic wire諸先生方の追試、御意見を戴ければ幸いである。



  1. 巻き爪にはマチワイヤ(超弾性ワイヤー)、陥入爪にはチューブ

    tube and super elastic wire  マチワイヤは巻き爪(弯曲爪)に対して有効であるが、軟部組織内の爪を即効的に出す力は無い。一方、従来の陥入爪に対する治療は、軟部組織内の物理的刺激を減らすだけで、爪を平坦にする力は無い。巻き爪と陥入爪は別の病態であり、両者が合併した時には難治陥入爪となる。

  2. 軽度の陥入爪に対するコットン・パッキング(cotton packing)

    cotton packing  先の尖ったピンセットを用いて、爪甲の角に綿花を詰め込む。爪が短い場合には綿は入らないが、軟部組織を押すだけにして、爪が前に伸びるのに従い、入るようになる。

     爪が薄く軟らかい場合にコットンの量が多いと爪が割れる事がある。割れると爪の角が出来て悪化する事がある。

  3. 肉芽に対する硝酸銀処置(silver nitrate)

    silver nitrate  1-2%のキシロカインを数滴、肉芽に垂らす。米粒大の硝酸銀粒を肉芽と爪の縁の間に置くと、溶けて液状になり、15分くらいで皮膚が黒色になる。硝酸銀の溶けた液が他の部位の皮膚に付くと黒くなるので注意する。黒くなっても数週間で消える。

    着けてから15分くらい様子を見て、ごく希に痛みが強い事があるので水で洗い流す。

     硝酸銀処置は肉芽を乾燥させて縮小する効果がある。ただし、爪の角、トゲによる物理的刺激を減少しなければ効果はあまり無い。コットン・パッキング、できれば tube splinting と併用する。

     炎症の激しい時期には週に1-2回行っている。排膿や侵出液が見られるが、ドレナージされていれば続けて良い。tube が良い位置に入れば痛みは数日で減少、消失するので約1ヵ月は有効である。
    硝酸銀の陥入爪に対する健康保険の適応は無い。

  4. コットン アンド グルー(cotton and glue)

    マチワイヤを入れて、硝酸銀を付け、20分後にcotton packingを行う。thorn(爪棘)が浅い場合にはトゲの先端にコットンが入り痛みが激減する。コットンが入ったら15分間後に指で押してみて痛みがほとんど無くなっている場合には、爪棘に挟んだcottonに外科用接着剤アロンアルファAを染みこませる。爪が伸びるまで交換は必要無い。

  5. ガター法(チューブ・スプリンティング)(flexible tube splinting)
     炎症、痛みが強い例に適している。特に軽く触っただけで耐えられない程の痛みがある場合に適応になる。こうした例は、腫脹が強いが、皮膚の破れが無く、膿の排出、ドレナージがまったく無い場合である。著者の経験では、痛みのある陥入爪の5%くらいに見られる。Heifez分類ではStage2に当たる。

     ほとんどの陥入爪、弯曲爪はマチワイヤにて治癒に導けるが、陥入爪50例に1例くらいに対してtube splintingを行ってる。著者は200例に対して行い良好な結果を得ている。

    tubeは9割は硝酸銀を塗って、15分間待ち挿入している。しかし、既に抜爪を繰り返している例では爪のフチが深いので局所麻酔が必要になる。

    患者様への説明
     「マチワイヤを入れ、同時に硝酸銀つけて20分間待ち、痛みを減らしてから診ます。」  「爪の縁に綿を入れ、程度が強ければtubeをかぶせます。爪のフチが深い場合には局所麻酔を使います。」と説明している。

  6. 指神経ブロック(digital nerve block)
    nerve block  赤矢印の炎症のある部分に、初めから局所浸潤麻酔を行うと痛みが強いので避ける。痛みの少ない指神経ブロックを用いている。1足趾に1%のキシロカイン、約10ccを用いる。アドレナリンを添加してあるキシロカインEは指には用いない。

    黄矢印の部分に骨の近くに達するまで深く針の先端を入れ、4カ所に、約1から2ccずつ注射する。効くまで10から15分間くらい待つ。

    神経ブロックを行って15分くらい待ち、足らない時に赤矢印の部分に局所浸潤麻酔として追加として行うのは、痛みが少なく有効である。

    block_trans.jpg  指神経の横断面における位置に合わせて4カ所に行う。指神経は指節骨のすぐ近くにあるので注射針の先端が骨に触れるくらいに深く刺入する。

  7. チューブの材料
     チューブの目的は陥入爪に対して、爪の縁が軟部組織に刺さらないように壁を作ることである。従来から様々な種類のスプリントが使われている。主なのはガーゼ、ソフラチュールガーゼ、Gutter法、レントゲン・フィルム(人工爪)、アルミ・ホイール、そして、私も使用しているチューブである。

    Terumoのtube チューブの材料は輸液セットの点滴管で、2-3cmの長さに切っておく。チューブの利点は、爪郭近位の炎症部位に対して閉鎖腔を作らず、dranageとして働き、侵出液の排出が出来るので、安全である。筆者の縫合法を用いれば5分以内で固定できる事である。

    ソフラチュールやガーゼによる方法では、閉鎖腔を作ってしまい炎症が増悪した経験がある。また、接着剤の固定ではスプリントが脱落してしまい、再度、局所麻酔を使うので患者様の負担が大きい。


  8. チューブの準備
    preparation_tube 尖ったハサミでチューブを縦に裂く。

    preparation_bevel チューブの先端はベベル(bevel)、門松状に斜めに切る。

  9. ルーペ
    loupes 注射針を刺す時、注射針のベベルの先端からナイロン糸を通す時にルーペがあった方が良い。

  10. 爪縁の展開
    爪甲の先端から爪縁にペアンを差し込み、爪郭の軟部組織を剥がす。軟部組織にチューブの入る隙間を広げる。

  11. 爪棘(thorn)の切除
    itn thorn 爪棘があれば切除する。難治例では爪棘が多く見られる。

  12. 皮膚をはさみで切開する。
    iillustration of skin incision 爪のエッジは軟部組織内で点線の部に隠れている。

    局所麻酔を使っている例ではチューブが深く入るように、皮膚をはさみで切開する。チューブは矢印の方向に入れる。


  13. チューブを差し込む
    inserting_tube 爪縁に裂いたチューブを肉芽のある部位より近位まで進め、できるだけ爪母近くまで差し込む。

    コットン・パッキングを患者様が行っていて、爪と軟部組織の間に隙間がある場合には麻酔無しでも入れることができ、以下の方法で糸で止める事もできる。


  14. チューブを切る
    preparation_tube チューブを軟部組織から少し出るように切る。

    糸で止めてからチューブを切る方が容易である。


  15. 注射針を刺す
    preparation_tube 下から上に向かって、23G注射針(ブルー)をチューブの1カ所と爪甲を貫いて刺す。皮膚と軟部組織には刺さない。

    この針の通る位置で効果が決まってしまうので慎重に行う。

  16. 注射針に糸を通す
    preparation_tube 注射針先端に4-0ナイロン糸を通して、針を抜く。細かい作業なので手術用または、メガネ式のルーペを用いると楽である。

    糸が針に入り難い時には、注射針の管が爪のデブリスで埋まっている事があるので、細い針を入れる。0.3mmのマチワイヤが使い易い。

  17. 糸を結ぶ
    preparation_tube ナイロン糸を結ぶ。

  18. 外科用接着剤を塗る
    preparation_tube 外科用接着剤アロンアルファA(三共)を爪甲とチューブの境に付ける。

  19. チューブの効果について
    preparation_tube  通常、1-2日で炎症、痛みは消失する。その後、発赤のある期間はシャワーのみ、「爪の周りの肉の赤みが無くなれば、入浴できます。」と説明している。経口抗生剤、鎮痛消炎剤は1日分出している。

     あくまでも、チューブは軟部組織の間に入れる緩衝剤であり、炎症を消退させる効果は強いが、効果の範囲はチューブが接している部位(赤矢印)に限られる。チューブの効果の持続は爪が伸びるまでの一時的な治療法である。

     爪郭のチューブの入っている部分よりも近位(黄矢印)に炎症が残る事がある。


  20. チューブの無効例について
     チューブが爪の尖っている部分に入れば、劇的な効果がある。その後、数週間して爪が伸びてきた時に、炎症が再燃する事がある。これは、チューブの入っていた部分よりも近位の爪が、強く巻いていて、軟部組織に刺さっている事が多い。再度、チューブを入れなければならない事が稀にある。


  21. 遊離爪片について
    tube splintingをしても、まったく効果のない例がある。

    そのため、tubing後に痛みがあれば必ず来院させて観察する。 「ボールペンで痛いポイントに印を付けてください。」と指示し、明らかな痛みがあれば局麻下に開け鋭匙で掻爬する。遊離爪片は中等度の炎症が長期間持続するのが特徴である。

    実際、遊離爪片は1,000例に1例ていど遭遇するので、tubeを入れた後、「痛みが取れなければ必ず見せてください。」と患者さんに説明しておく。

  22. その後の処置
    preparation_tube  数日後に診察しているが、発赤の残っている例は稀である。チューブは爪が伸びたら、先端をハサミで切る。1から2ヵ月後に抜糸してチューブを取り外す。

     出来れば、チューブと同時にマチワイヤを入れる。爪が短い場合には爪が伸びて爪甲遊離縁(爪の先端の白い部分)が出たらマチワイヤを入れる。マチワイヤを使用しないと炎症が消えるまで時間が掛かる。また、時間を掛けて、チューブのみで治療しようとしても、爪甲の弯曲が治らないので、歩行すれば炎症が再発してしまう。

     難治な陥入爪は、弯曲爪があり、テニス、スキーなどの運動や立ち仕事を行う患者では、爪甲の角が軟部組織の外に出ても1から2ヵ月ごとにマチワイヤによる爪矯正を続ける必要がある。

     原法のGutter法(Wallace 1979)は良い方法であるが、普及しなかったのは、一時的に炎症が軽くなるだけで、活動的な患者では数ヶ月から数年後に再発してしまうからと推察する。爪矯正の併用が必要である。

  23. ガター法、チューブ に関する文献
    Wallace WA, Milne DD, Andrew T.Gutter treatment for ingrowing toenails.,British Medical Journal.21,168-171,1979

    Nail splinting by flexible tube--A new noninvasive treatment for ingrown toenails,Klaus W. Schulte,Norbert J.Neumann,Thomas Ruzicka,Journal of the American Academy of Dermatology,39,629-630,1998

    Gupta S, Sahoo B, Kumar B.,Treating ingrown toenails by nail splinting with a flexible tube: an Indian experience.,J Dermatol Sep;28(9):485-489, 2001

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