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以下は
江川雅昭, 形状記憶合金プレートを使用した陥入爪治療,大阪医学,32,1-3,1998
の図表を除く全文です。
著者の許可を得て掲載しています。


Title: Treatment of Ingrown Toenails Using a Shape Memory Alloy Plate

Author: Masaaki Egawa, M.D., D.M.Sc.
Egawa Clinic for Hand and Orthopaedic Surgery

The author has been using a shape memory alloy plate (SMA plate, Tama Medical, Japan) to treat ingrown toenails since February 1996, and has evaluated the effectiveness of this method.

Materials & Methods
The shape memory alloy plate(SMA plate) method was used to treat 70 ingrown toenails in 43 patients (6 male, 37 female) at the author's clinic between February 1996 and August 1997. In each case the follow-up period exceeded 2 months.
The SMA plate is made of nickel-titanium alloy which returns to its memorized flat shape at a tempurature above 45゜Celcius. The plate is 3 mm wide, 20 mm long and 0.2 mm thick.
To treat a patient, the plate is first bent and adjusted to the contour of the nail, then glued to the nail's surface using a surgical adhesive such as Alonalfa-A(Sankyo, Japan). The patient is then instructed to expose the plate to a temperature of more than 45゜Celcius using a hair drier or similar device for approximately 10 seconds two or three times per day.

Result: Pain due to ingrowth of the nail margin in all 70 nails disappeared within the second to fourth week. All patients were satisfied with the early relief of pain. Correction of the nail's shape began from the second to sixth month of the treatment period, with pronounced thickness or stiffness of the nail delaying the start of correction.

Discussion:
The results obtained show this method to be effective for treating ingrown toenails and other kinds of nail deformities. The method is both non-invasive and painless, and no special instruments are required. All that is necessary is an SMA plate and surgical adhesive. The author strongly believes that the SMA plate method should be added to the treatment options for ingrown toenails, and that it presents an effective alternative to surgical nail plasty.


表題: 形状記憶合金プレートを使用した陥入爪治療
著者:江川 雅昭
生涯研修チケット番号:01238159

所属:江川整形外科形成外科
〒530-0017 大阪市北区角田町8−47 阪急グランドビル22階
Tel:06-315-8450, Fax:06-315-0170

要旨
 陥入爪および弯曲爪の治療に形状記憶合金プレートを用いて良好な成績を得た。
方法:約45℃で平板に戻るよう記憶させたニッケル・チタン合金製の形状記憶合金プレートを外科用接着剤で爪に貼りつけ、ヘアードライヤーで1日2〜3回加熱させる。
対象:2カ月以上経過観察した43名70指について検討した。すべて足の第1指である。結果:疼痛は全例で早期に消失した。爪の変形が矯正される傾向にあるもの20名40指。
若年者では爪甲が柔軟であるため治療効果が高いが、プレートが剥がれやすい。爪甲が硬い高齢者では変形を矯正するには時間がかかる。
考察:形状記憶合金プレートは陥入爪および弯曲爪の治療においては、短期的には爪縁のくい込みによる疼痛を除去する効果があり、長期的には爪の形状を矯正する効果があることが明らかになった。
キーワード  形状記憶合金プレート:shape memory alloy plate陥入爪:ingrown toe nail

{はじめに}
 陥入爪や弯曲爪は爪郭炎を繰り返すことが多く、治療に難渋することが少なくない。また、爪形成術を行うと爪幅が狭くなり整容上問題であるうえ、変形が再発する可能性がある。陥入爪および弯曲爪の治療に形状記憶合金プレートを用いて良好な成績を得たので報告する。

{方法}
 約45℃で平板に戻るよう記憶させたニッケル・チタン合金製の陥入爪治療用形状記憶合金プレート(多摩メディカル、幅2mmn、長さ20mm、厚さ0.2mm)を外科用接着剤で爪に貼りつけ、市販のヘアードライヤーで1日2〜3回加熱させる。
 貼付時の注意点は以下の如くである。位置は疼痛の強い場合には遠位側に、疼痛のない場合にはできるだけ中枢にする。遠位端に貼るのは爪縁のくい込みによる疼痛を取り除くためであり、中枢に貼るのは爪母部にも矯正力を作用させる目的である。貼付するプレートの方向は爪の横軸に一致させ、できる限り爪の全幅に張るように注意する。先の細いラジオペンチなどを用いて貼付予定位置の爪甲の形状に合わせてプレートを曲げる。室温では容易に形状を決定できる。爪縁が爪溝内に埋没している場合には、細い粘膜剥離子などを利用して軟部組織を圧排し、できるかぎり爪の全幅にプレートを貼付するように努力する。プレートが長すぎる場合には金切り鋏で切除する。
 爪郭炎を合併して肉芽を生じている場合には、局所麻酔下に爪甲の部分切除と肉芽組織の掻爬を行ない、創が治癒してから本プレートを使用した。
 プレートは自然に脱落するため、1〜2週間に1回程度通院させ、再度貼付すると同時に経過を観察した。患者や家族に指導して貼付させることも可能であるが、このような場合には1カ月に1回程度の頻度で経過を観察した。
 爪甲の形状の変化については、定期的に写真撮影をおこなって比較検討した。

{対象}
 1996年2月から1997年8月までの間に本治療を開始した男6名11指、女37名59指、合計43名70指について検討した。経過観察期間は2カ月から1年6カ月、すべて足の第1指である。

{結果}
 爪縁のくい込みによる疼痛は全例で1から2週間、遅くとも1カ月以内に消失した。爪の陥入や弯曲が矯正される傾向にあるものは、20名40指(57%)であった。経過観察中に爪郭炎を起こしたものは3例3指であり、局所麻酔下に爪甲の部分切除と肉芽の掻爬をおこなった。爪甲が柔軟である場合には約6カ月で爪甲の形状が改善し始めたが、プレートが剥がれやすい傾向が認められた。爪甲が硬い場合には変形の改善が始まるまでに1年を要するものが多かった。
 矯正するには時間がかかるものの、早期から徐痛されるため患者の満足度は高かった。

{考察}
 陥入爪や弯曲爪はその形状故に「爪切り」が困難で爪刺を残しやすく、この爪刺が軟部組織を損傷することによって爪郭炎を引き起こす。繰り返して爪郭炎を起こし、局所麻酔下にあるいは無麻酔で部分抜爪や全抜爪を受けている患者は数多く見受けられる。
 町田は陥入爪の治療に本プレートとコットン・パッキングを併用して良好な成績を得ている。著者はコットン・パッキングをおこなわずプレートのみを使用したが、同様に良好な成績を得た。
 本研究で用いた陥入爪治療用形状記憶合金プレートは室温では自由に曲げられるため、変形した爪甲の形状に適合させることが容易である。また加熱した時のみ矯正力が働くため、過矯正に陥る危険が少ない。
 治療効果についてみると、短期的には爪縁のくい込みによる疼痛を除去する効果があり、長期的には爪の形状を矯正する効果がある。
 本法の長所についてみると、非侵襲的手技であり治療時に疼痛を伴わないこと、特別な器具を必要としないことが挙げられる。必要物品は形状記憶合金プレート、金切り鋏、ラジオペンチ、外科用接着剤(アロンアルファA)のみで、容易に入手可能なものばかりである。
 短所はプレートが高価であること(\9,800/1枚)、プレートの貼り直しに1〜2週間に1回程度の通院を必要とすること、爪の形状が改善するまでに6カ月から1年という長期間を要すること、形状の変化を数値的に評価する方法がなく主観に頼らざるをえないことなどである。しかし、プレートは紛失さえしなければ繰り返し使用することができ、患者自身で貼付するように指導すれば通院間隔を伸ばすことも可能である。治療には長期間を要するものの、早期に除痛されるため、治療期間について患者が不満を訴えることは少ない。形状の変化を客観的かつ正確に観察するには、定期的に写真撮影をおこなって比較検討する必要がある。(図1、2)
 本法は陥入爪および弯曲爪の保存的治療方法としては優れた方法であり、長期の加療が可能な患者においては、最初に試みる価値があると考えている。

参考文献
1)町田英一、佐野精司、江川雅昭:陥入爪に対するコットン・パッキングと形状記憶合金プレートによる矯正治療、靴の医学;1996, 10:56-60

図の説明
28歳女性
図-1:初診時
図-2:形状記憶合金治療1年間継続後