tama-medical.com 2004年4月13日更新

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超弾性ワイヤーによる巻き爪治療の実際

塩之谷整形外科 塩之谷香

【はじめに】陥入爪、巻き爪は医療側にとって些末な問題として扱われていることが多いが、患者にとっては疼痛が強く、日常生活に支障を来している場合も少なくない。漫然と消毒や抗生物質の投与を受け続けている症例や、安易に爪を切ったり抜いたりという治療を受け、再発に悩む症例も多く存在する。超弾性ワイヤーによる巻き爪治療は簡便で患者の苦痛も少なく、満足度が高い治療方法であるのでここに紹介する。

【方法】超弾性ワイヤーはニッケル・チタン合金で、曲げる力に対し直線を保とうとする性質を持っており、この性質は長期間持続する。ワイヤーの太さは0.35,0.4,0.5,0.55,0.6mmの5種類あり、爪の厚さによって使用するサイズを選択する。通常0.5mmの太さのものを用いるが、厚くて固い爪には太いワイヤーを選択する。薄くて割れやすい爪・肉芽ができていて湿っている爪・II趾以下の小さい爪・手の爪などには細めのワイヤーを選ぶ。

道具は特殊なものは必要なく、爪に穴をあけるための注射針、ワイヤーを通した後に切るニッパーがあればよい。その他、先の細いプライヤーなどがあると便利である。通常局所麻酔剤は必要ないが、炎症がひどく触れるだけでも痛い場合、くい込みがひどく爪を持ち上げる際に痛みがある場合は趾の基部で神経ブロックを行う事がある。

爪の先端の白くなっている部分の両端に、爪の裏側から注射針を用いて穴をあける。ここにワイヤーを通し、余分をニッパーで切り、ワイヤー付属の外科用瞬間接着剤で固定するだけである。この際、爪が矯正されて平らになるとワイヤーが飛び出して隣接趾に刺さることがあるので、なるべく短めに切るのがコツである。



肉芽や感染のある症例でもワイヤー治療は可能である。ワイヤーを通すことによって、肉芽や感染が鎮静化する。ただし、肉芽により爪が湿っている場合はもろく割れやすいため、細めのワイヤーを用い、慎重に操作する。肉芽は、硝酸銀の結晶を生理食塩水でぬらして焼灼する。一週間程度で焼灼した部分が痂皮化して除去可能となり、肉芽が縮小する。

爪白癬の症例でも、ワイヤー治療を行うことはできる。爪が厚い場合、ワイヤーの刺入方法に工夫が必要である。他の内服薬との飲み合わせや、肝機能が許せば抗真菌剤の投与を併行する。

ワイヤーの効果が早く現れる場合は、通した直後から痛みがなくなる。ほとんどの場合数時間後から翌日にはかなりの割合で痛みが消失するか軽減する。爪が開いていく過程で軽い痛みや違和感を訴える患者もいるが、数日で消失する。入浴、スポーツなど日常生活に制限を加える必要は全くない。むしろ、疼痛のためできなかった、歩行・運動などが可能になる場合が多い。

ワイヤーの矯正効果は爪に入っている間はずっと持続する。爪が伸びた時点で再診させ、爪を切って再度爪に穴をあけ、残りのワイヤーを通すことをくりかえす。再診の期間は爪が伸びる速度によりそれぞれであるが、肉芽・感染のある患者で週1度、伸びの遅い患者で2ヶ月に一度程度で、平均的には1-1.5ヶ月に1度である。痛みが消失し、形状も改善すれば治療は終了する。くい込みが弱く、薄い爪の患者は1度で治療が終わることもあるが、彎曲が強く厚い爪では年余にわたる治療が必要になることもある。

【症例】

2001.10.22

ワイヤー刺入直後

2002.11.26

2003.12.11

2003.04.01


47才女性。3年前から疼痛を伴う陥入爪。抜爪術も受けた。ワイヤー刺入直後より疼痛が改善している。講演では他にも症例、難治例を呈示する。

【考察】約500人の患者を超弾性ワイヤーで治療してきたが、医療機関において適切な治療が施されていたと思われる患者はあまり多くなかった。食い込んでいる部分を切除すれば一時的には楽になるが、伸びてくればまた痛みを生ずる。感染や肉芽などの炎症症状がある状態では巻き爪の治療ができないと言われ、消毒や抗生物質の内服・外用を長期にわたって行っていた症例も数多いが、食い込んでいるから感染するのであって、それを解消しないと炎症の改善は見込めない。抜爪後の再発症例、爪形成術後の変形に悩む症例も多数来院している。ワイヤー治療は長期間にわたることがあるため、医療サイドからは「切った方が早いのではないか」という意見を聞くが、片足手術を受けた症例や再発例など、一度でも外科的加療の経験がある患者は、全員がワイヤー治療の継続を選択する。外科的治療に比べて治療前後の痛みがほとんどなく、入浴も可能であり、日常生活上の支障がないためである。過去に強い疼痛を味わった患者は、再発防止に細めのワイヤーによる治療継続を希望するものも多い。ワイヤーが入っている事によって安心感が得られるという。

【まとめ】超弾性ワイヤーによる陥入爪・巻き爪治療は、外来で簡便に行える治療であり、また患者の満足度も高い。一般的な治療方法として普及が望まれる。

【参考】ワイヤー入手先、問い合わせ先:多摩メディカル tama-medical.com
塩之谷整形外科ホームページ http://www.shionoya.net/