従来陥入爪の治療はいろいろな方法が試されてきましたが、患者の苦痛が最も少ないと思われるすばらしい方法が日本で開発されましたので、このIVOという機会をもちまして皆様にご紹介したいと思います。
たかが巻き爪、と思われがちですが「仕事上靴を履かなければならないが痛くて履けないため仕事を長期に休んだ」「体育の授業ができないために総合成績が足らず、希望の高校に進学できなかった」「歩くたびに痛いので長く歩けず体重が大幅に増えてしまった」などの訴えがあります。大げさのように思われますが、患者さんの苦痛は強く、悩みは深いのです。
新しい治療法は、爪にワイヤーを通すだけです。この超弾性ワイヤーは屈曲力を加えても直線化しようとする性質を持った特殊な合金です。0.35,0.4,0.5,0.55mmの4種類があります。通常の厚さの爪には0.5mmを使用しますが、薄い爪やもろい爪には0.35-0.4mmを使用します。開発者は共同演者のドクター・町田です。
最低必要な道具は、注射針、ペンチ、ニッパー、ピンセットです。ワイヤーを爪に固定するために人体用の瞬間接着剤を使用します。その他爪を切ったり、削ったりするための道具を追加することもあります。
ビデオで実際の手技をお見せします。(注 : ビデオはウェブサイトに載せていません。)
まず爪に注射針で穴を二つ開けます。その穴にワイヤーを通します。穴を開けた注射針を残しておいて、ワイヤーを通すガイドに使うこともあります。ワイヤーの残りが短くなってきた場合には、このガイドを使うとワイヤーが通しやすいです。爪の上からワイヤーを押さえて、上に飛び出た部分を抑え、なるべく平らにします。ワイヤーをカットします。爪が矯正されて平らになると、ワイヤーが爪からはみ出してくることがあるので短めに切る必要があります。人体用の瞬間接着剤をつけます。手技はこれだけです。
次にドリルを使っているところをお見せします。手に負担がなく、時間も短縮できます。私は多くの患者さんの爪に穴をあけるため腱鞘炎になりそうでしたが、これで救われました。穴を開けると後は同様にワイヤーを通すだけです。すぐに靴下をはくとくっついてしまうので、しばらく乾燥させます。何週間か経って爪が伸びてきたらワイヤーを抜いて爪を切り、残りのワイヤーを通します。 1月から1月半に1度の通院ですみます。
爪の先にワイヤーを通すだけでこのように曲がった爪でも、2ヶ月ほどでかなり平らになります。
爪の端が食い込んで痛みがあり、化膿しています。妊娠中のため内服や麻酔、手術をしたくないという希望により来院されました。中央はワイヤーを入れた直後の画像ですが、爪の端が持ち上がっているのがわかります。痛みはこの時点で楽になり、翌日消失しました。わずか1週間後、爪は平らになっています。1年半を経過しても痛みは発生していません。このように爪が薄い場合は治療が短期間で終了することがあります。
爪の周囲が炎症を起こしている場合には硝酸銀(Silver nitrate)を使用します。日本では、薬局を通じて手に入れることができます。
生理食塩水でぬらした結晶を、肉芽に当てるだけです。皮膚に付くと黒くなるので気をつけましょう。お気づきになった方もいらっしゃるかもしれませんが、さきほどのビデオの中で私の手にあったしみは、硝酸銀が付いたものです。
硝酸銀をあてて腐食した部分は固まり、除去することができます。この症例は3年ほど前に爪の根元を切除する手術を受けていますが再発しました。肉芽のような強い炎症がある場合は爪がしめっていてもろく割れやすいため、炎症がおさまってからワイヤーを通した方がいいこともあります。
33才男性です。以前に爪の両脇を切る手術を受けたことがあります。再発して前医に再度受診したところ、爪を根元から抜くことを勧められました。手術を希望せず、当院に来院しました。爪が厚かったのでルーターで中を削り、ワイヤーを通しました。痛みはすぐに消失しました。矯正力を強めるため、ワイヤーを2本、あるいは3本通しました。2ヶ月に1度ほど通院していらっしゃいます。
51才女性です。10年ほど前に爪の両脇を切る手術を受けていますが再発しました。ワイヤーを通し、痛みが消失しました。
足の爪だけでなく、手の爪にも応用することができます。脳卒中後の片麻痺では麻痺側の爪の両端が丸くなり、食い込むことがあります。
62才女性です。腎不全のため透析の治療を受けています。爪の端が食い込んで痛みがありましたが、腎臓機能が悪いため鎮痛剤の内服ができず、痛みに悩まされていました。ワイヤーを通してすぐに痛みが楽になりました。
右の第II趾です。ワイヤーと硝酸銀を使って炎症がおさまり、痛みがなくなりました。母趾だけでなく、他の趾にも応用ができます。
54才の皮膚筋炎の女性です。数年前から両足の爪が巻き始め、痛みに悩まされていました。ワイヤーを入れておけば痛みはありません。6週間に1度の割合で通院中です。片足5本のゆびにワイヤーを通すのにはたったの4分しかかかりませんでした。
このワイヤーによる治療手技は非常に簡単です。ほとんどの場合局所麻酔は必要ありません。爪に穴を開けるため、ほぼ痛みもありません。いったん通せば、数ヶ月間矯正効果が持続します。
皮膚科に通院していた場合、軟膏を塗る処置を受けていることが多いですが、痛みはとれず炎症がおさまらないことがほとんどです。爪の端を切り込むと一時的に痛みが治まっても、伸びるときに再度食い込んで痛みが出ます。
18才男性です。皮膚科に通院していましたが、爪の端を切られ何度も再発していました。消毒薬のため皮膚炎をおこしています。硝酸銀を使って肉芽を処置してワイヤーを入れ、消毒を中止するように伝えました。1週間後、炎症はほとんどおさまり痛みもなくなりました。爪は平らになりましたが、食い込んでいた痕が残っています。
外科医の多くは根本的治療には手術しかないと思いこんでいるため、外科、整形外科で治療を受けていた場合は手術的治療になることが多いです。 32才女性です。15年前に受けた手術の瘢痕がまだ痛むということです。残った爪の端が食い込んでいます。
27才女性です。12年前に爪の両脇を切る手術を受けました。その後再発を繰り返し、何度か手術を受けました。爪の幅が狭く、変形を残しています。この手術は爪を狭くするだけです。
48才男性です。10年前に手術を両足とも受けました。爪の脇から小さな爪が伸びてきて痛みがあります。また、左足の爪は食い込んでおり痛みがあります。手術をしても患者さんの苦痛は残ることがしばしばあります。
「ワイヤー治療のため数ヶ月にわたって通院が必要なら、手術をした方が早く治るのではないか」という質問を同僚の医師から受けることがありますが、過去に手術を受けた経験がある患者は全員が「手術は2度と受けたくない。どれだけ時間がかかってもワイヤー治療を続けたい」と希望しています。
このように強いカーブの爪も、ワイヤーできれいになります。この女性は他の病院で手術のしようがないと言われて来院しました。ワイヤーを通す際に、夏でサンダルを履く時期でしたので、飾りにビーズを通しました。治療に痛みがまったくなかった上、今まで人前に足を出すのが恥ずかしかったのにかわいく治療をしてもらったと大変喜んでうれし泣きをしていました。
患者さんには若い女性が多いため、希望によりワイヤーに飾りをつけています。爪の治療を受けているようには見えず、ネイルアートサロンに通っているのかと周囲の人に羨ましがられることもあるそうです。これからも患者さんのためによりよい爪の治療を行っていきたいと思います。
ワイヤーの入手方法などは、以下のアドレスにアクセスしてください。ご静聴ありがとうございました。